標本写真の画期的な技法=焦点合成
焦点合成の概要
焦点合成は、被写体に対して焦点をずらして撮影した複数枚の写真から、ピントの合った(焦点内の)部分を抽出して合成処理を行うことで、被写体の全部におよぶような広範囲にピントの合った画像を得る手法です。
合成処理を行うための専用のソフトウェアが開発されています。
焦点合成の用語について
焦点合成は英語で Focus stacking といいます。英語の意味と「焦点合成」の意味合いは整合していますね。
ところが、よく「深度合成」ともいわれています。
深度とは被写界深度(Depth of field)か焦点深度(Depth of focus)のことをさしていると思いますが、「深度」と「合成」を組み合わせた「被写界深度合成」とか「焦点深度合成」というものの意味合いが、個人的にはしっくりしない感じがしています。
オリンパスでは「焦点合成」とは言わずに「深度合成」と呼んでいます。
しかしオリンパスでも英語で表現する際には「Focus stacking」と言っています。
ニコンでも「深度合成」です。英語ではやはり「Focus stacking」です。
またニコンの顕微鏡分野では「焦点画像合成 EDF: Extended Depth of Field」という言葉がでてきます(こちらは日本語で“焦点”と言うのに英語では“拡張された被写界深度”!)。
このブログでは「焦点合成」に統一したいと思います。
撮影法
焦点をずらして撮影するには以下のようなやり方があります。
A.撮影倍率を一定にして(レンズのピント調節を固定して)撮影する方法
- カメラを前後にずらす
- 被写体を前後にずらす
- レンズのピント調節リングを回す。あるいは、蛇腹(ベローズ)を使うレンズの場合は蛇腹を伸縮させる
- カメラをコンピュータと接続してリモート撮影が可能な場合、コンピュータ画面上でレンズのピント調節を制御する
- カメラの撮影機能に備わっているものがある
- オリンパス OM-D E-M1 Mark II、 E-M5 Mark II、PEN-Fなど
- ニコン D850、Z7、Z6
どの方法でもオーケーです。
Aのやり方では、横方向からの撮影ではカメラ側を動かす方が楽で、真俯瞰の撮影では被写体側を動かす方が楽だと思います。カメラ側ないし被写体側を動かすために、マクロスライダーや昇降装置が必要です。
Bのやり方では、標本写真のような接写の場合は、ピントリングを手動で少しずつ回していくのはなかなか困難です。ベローズタイプだとやりやすいかもしれません。
B-2のカメラをコンピュータと接続してリモート撮影が可能な場合は、スムーズに作業ができて楽です。
B-3の撮影機能付の最新のカメラが使えれば一番簡単です。この機能はレンズの駆動を自動で行うものです。
標本写真のような接写ではない場合は、Aのやり方は、ずらす量の限界があるので不可能になります。その場合はBのやり方で行います。
合成法
焦点をずらして複数枚撮影した画像から、ピントの合った部分を抽出して合成するには、専用のソフトウェアを使います。
以下のようなソフトウェアがよく使われているようです。
ソフトウェアの操作手順を追うだけで合成処理が行われるので、基本的に何も難しいことはありません。
- Zerene Stacker(焦点合成専用ソフトウェア)
- Helicon Focus(焦点合成専用ソフトウェア)
- Combine ZP/ ZM(焦点合成専用ソフトウェア)
- Photoshop(汎用画像処理ソフトウェア)
ソフトウェアの操作手順を追うだけで合成処理が行われるので、基本的に何も難しいことはありません。
レンズの絞りの効果
レンズの性質として、絞りを絞り込むとピントが合っているように見える範囲が焦点を合わせた面の前後に広がります。これを「被写界深度が深くなる」といいます。
一方で、ある程度以上に絞り込むと、光の回折のために結像の鮮明さが低下し解像度が低下するという現象が生じます(「小絞りボケ」と呼んだりします)。
この絞りによる効果(および現象)は標本写真の撮影でもとても重要です。
また、絞ることで色収差(軸上色収差)、球面収差、像面湾曲などの収差が改善されます。周辺減光も改善されます。
このことにより、絞りが開放の時よりも、少し絞ると全体的な画質が良くなるということが一般的です。
次の写真は Nikon Macro Nikkor 12cm を使って小さな貝化石を絞りを変えて撮影した例です。撮影倍率は約3倍、カメラは Canon EOS 5D mark II。
絞り開放や1段絞ったF9では、ピントの合ったところはシャープですが、ボケが大きいです。絞り開放ではまた、色収差が気になります。F18で解像度の低下が気になり、F32やF51では顕著です。
一方で、ある程度以上に絞り込むと、光の回折のために結像の鮮明さが低下し解像度が低下するという現象が生じます(「小絞りボケ」と呼んだりします)。
この絞りによる効果(および現象)は標本写真の撮影でもとても重要です。
また、絞ることで色収差(軸上色収差)、球面収差、像面湾曲などの収差が改善されます。周辺減光も改善されます。
このことにより、絞りが開放の時よりも、少し絞ると全体的な画質が良くなるということが一般的です。
次の写真は Nikon Macro Nikkor 12cm を使って小さな貝化石を絞りを変えて撮影した例です。撮影倍率は約3倍、カメラは Canon EOS 5D mark II。
Macro Nikkor 12cm,絞り開放= F6.3 |
Macro Nikkor 12cm,絞りF9 |
Macro Nikkor 12cm,絞りF13 |
Macro Nikkor 12cm,絞りF18 |
Macro Nikkor 12cm,絞りF25 |
Macro Nikkor 12cm,絞りF36 |
Macro Nikkor 12cm,絞りF51 |
絞り開放や1段絞ったF9では、ピントの合ったところはシャープですが、ボケが大きいです。絞り開放ではまた、色収差が気になります。F18で解像度の低下が気になり、F32やF51では顕著です。
標本写真と焦点合成
標本写真の分野では、標本の全体をおしなべて示したい場合、標本のなるべく全面にピントの合った写真が欲しいということになります。その場合レンズの絞りの設定は、ボケが多くなる開放付近よりも、絞り込んで被写界深度を深くして撮影します。例えば 100mm F4のレンズでF22とかを使います。
しかしながら、あまり絞り込むと回折現象により画像の解像度が低下してしまうのが悩みです。とくに等倍以上の倍率で撮影するような場合は、この絞り込みによる解像度の低下がかなり気になります。しかも、仮に最も絞り込んだとしても被写界深度の深さには限界があって、標本全体には及ばないことが多いです。
実際的には、ボケが目立つ写真ではあまりよくないので、解像度よりも、被写界深度の深さの方を優先したりします。上の貝化石の写真の例では、解像度が甘くなっているけれども被写界深度がそこそこ全体をカバーしているF18かF25のものを採用したりします。
実際的には、ボケが目立つ写真ではあまりよくないので、解像度よりも、被写界深度の深さの方を優先したりします。上の貝化石の写真の例では、解像度が甘くなっているけれども被写界深度がそこそこ全体をカバーしているF18かF25のものを採用したりします。
焦点合成は、こうした悩みを解決してくれる画期的な技法です。焦点合成を用いれば標本の全面が鮮鋭な写真を得ることができます。
上の貝化石で焦点合成してみました。ソフトウェアは Zerene Stacker を使っています。
どこまでもシャープだというものではありませんが、普通のワンショットの画像と比べて標本写真としてよりふさわしいものができ上がりました。